日記(10/10未明)

・部屋で寝ている。ただの部屋ではない。自分が1年半暮らしてきた部屋が、箱に解体されていく、その途上にある部屋である。1年半かけてごちゃごちゃ物を溜め込み続けてきた部屋は、今数週間をかけてどんどん引っ越してきたばかりの頃の寂しい姿へ戻ってきた。今、壁には何も貼られていない。本棚は解体された。床には仕舞いそこねた持ち物といらなくなったダンボールが漫然と落ちている。落ち着かないことこの上ない。

・部屋って箱になるんだ、という気付きは、実家を出るときにもあった。自分の部屋が箱になっていく違和感、しかしながらあのときの箱はたった20程度だった。今すでに箱は45を超えている。中身はほとんどが本だが、一人暮らしにしてはかなり物が多いほうだと思う。自分が過ごした1年半のことを思う。実家を出て、同居人とたくさん話して、働いて、懸命に生活をした。その軌跡が箱の数で見える。

・家に未練がないかと言われたら嘘になる。もっと長く住みたいと思える部屋だった。だがこの部屋に私が住んでいたという記憶は、今月末に出る自著の表紙に詰まっていると思う。
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この絵はイラストレーターの友人・松本大幹にお願いしたもので、自分の部屋をモデルに描いてもらった。実際の様子以上にごちゃごちゃにしてもらい、いろいろなモチーフを足してもらっている。私の精神的なワークスペースを示しているような絵だ。実物との差こそあれ、自分はここに暮らしていたんだなあと思う。改めて、この絵を描いてもらってよかったと思うし、表紙の描き下ろしを快諾してくれた人文書院さんにも感謝したい。

・実家を出るとき、あれほど実家を離れたくて仕方なかったのに、なぜか涙が止まらなかったのを覚えている。私はあのとき自分を包摂する営みからようやく剥離した。今住んでおり、これから出ていくこの部屋には、結局一度も家族が立ち入らなかった。家族のことは憎んでいないけど、家族のいない場所を一年半守れたことは、自分にとってとても良かったと思う。私の初めての城とは、間もなく別れる。

・次に住む家はもう決まっている。親戚に借りるから今の部屋より気を使う部分は多いが、私の部屋になることは間違いがない。なるべく長く、と思うけど、原則一年の約束だから、先がどうなるかは何もわからない。どうか私の城になってくれますように。